─Del Fiore バイヤーとしての視点から昨日の記事の続き第2篇─

■はじめに
イタリア製の服は、なぜ魅力的なのか。
生地の上質さ、立体的な構造、縫製の美しさ――

それらが「一点物のような説得力」を放っていることは、
私もこれまで長くお取り扱いしてきた中で、日々実感しております。
しかし同時に、こうも思うのです。

「本当に、イタリアの服は“細身”である必要があったのだろうか?」
この問いに、私は現地で何度も向き合うこととなりました。
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■イタリア現地にて感じた“サイズの常識”の違い
私が初めてイタリアを訪れ、ショールームやエージェント、工房とやり取りをする中で
驚いたことがございます。
それは――
「52・54・56サイズが“当たり前”に存在している」ということです。
現地の紳士服ブランドのサイズ展開は決して“日本で言われるほどスリム一辺倒”ではありません。
特にナポリ

フィレンツェ

ミラノ

といった都市では、
中高年の男性が“体格の良さ”を恥じることなく、“気品ある装い”に昇華している姿を多く見かけました。

それよりも私がよく言われたのはサイズが合ってない事の方がいかにハイブランドを着るより恥ずかしいと言う事でした。
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■“痩せていること”が前提になっていた日本の市場
一方で、日本においては長年、46サイズを“基準”とする価値観が業界に根強く存在しておりました。
• 44や46は「スタイリッシュ」「細身向け」
• 50や52は「やや太め」「在庫が残るリスク」
• 54や56は「ほとんど仕入れ対象外」

このような傾向は、現場のフィッティングとは大きくかけ離れており、
結果として**“海外の洋服なのに、むしろ日本の方がタイト”という逆転現象**を生んでしまったのです。

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■誰が、服の設計を“細身”に変えてしまったのか?
ここで重要なのは、
イタリア側が一方的に細く作り始めたわけではない、という点です。
私が同い年のビームスの西口さん

がナカガワクロージングがおられた時同い年と言う事でよくお伺いした時は(もう20数年前でしょうか)GuyRoverポロシャツ👕
なども着丈がものすごく長くゆったりとしたものでした。
そこから進化して
イタリアブランド側が世界に販売していくために「アジアンサイズ」なるものを作り
「日本のバイヤーが、細身で着丈、袖丈が短いものにするようリクエストを重ねた」

これが、現地の職人・メーカーから幾度となく聞かされた実話でした。
もちろん、商売として売れ筋サイズを重視することは理解できます。
ですがその結果、“現地本来の構造美”や“体格への包容力”が犠牲になってしまったという事実は、
私にとっては非常に重たく、残念なものでございました。
最もあのままイタリアサイズを日本人が着ることは「お直しありき」ではありました。ただ今私も元お直し屋さんに居ましたからどちらの気持ちもわかりますが1.5倍〜2倍ぐらい値上がりしましたから良かったのかどうかですね。
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■イタリアで聞いた忘れられない一言
ミラノの老舗でPitti Uomoの最古参であるAl Bazar(アルバザール)のLino(リーノ)氏の言葉を、私は今でも忘れることができません。

「男はね、年齢を重ねると妊娠するんだよ。」
笑いながらそう話されたその言葉は、
• *「お腹が出ることは自然であり、むしろ男の証明でもある」**という
彼らの“人間味を認める価値観”を象徴しているように感じました。
リノ氏は続けてこうも語られました。
「イタリアの服は、腹を隠すのではなく、美しく包む構造になっている。
それを無理にスリムにするのは、美しさを壊すことだよ。」

私はこの言葉に、
長年感じてきた違和感への答えを見つけたような気がしたのです。
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■立体構造と包容力、それが“イタリアの真価”
イタリアの服は、単に細くてシルエットがきれいなだけではありません。
✔️ 身体の厚みに合わせて、
✔️ 胸板や二の腕にも柔らかく沿い、
✔️ そして何より「お腹まわり」を“否定せず”に受け止めてくれる。
この**“赦しの構造”**こそが、
現地でのリアルな生活者目線に基づいた設計なのです。
しかも袖丈直しもイギリスのスーツの聖地サヴィルローでもそうらしいですが
「明日にはホテルに届ける」
と言う速さとアグレッシブさ。
お店の地下?でお弟子さんが即修して下さるそうです。日本では一週間〜二週間かかりますが。
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■だからこそ、Del Fioreでは──
私たちは今、42・44サイズの仕入れをしておりません。と言うのは多くの会社様で42〜46サイズをお取り扱いされています。
しかし、弊社のお客様はほぼ1980年お生まれ以前の45歳以上、70代の方々です。
それこそ体型が崩れたのではありません。
歴史を刻まれたのです。イタリア流に言うならばご自分の体型をカッコ良さに昇華されたのです。

Alessandro Squarzi氏
必要以上の46サイズ展開も控え、
50・52を“軸”とした構成に切り替えてまいりました。
若者に習って、または若い時のように「理想体型」であるかどうかではなく、
“今の自分を認めた上で、今日の自分に希望やワクワクが持てる服”を届けたいと、心から願っております。
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■おわりに
体型を受け入れるというのは、甘やかしではありません。
むしろ、「どうせ自分は太ってるから」「鍛えてるから」「お酒を嗜むものでお腹が」「肩幅が張っているから」と諦めてしまうよりも、
今の自分を美しく整えてくれる服と出会うことのほうが、ずっと勇気のある選択だと私は思います。
それはスーツの生産管理時代、職人と触れ合ってきて、その「道」は一生涯なのです。よく大阪市の日本の縫製の聖地、大阪の緑橋の職人さん

に可愛がってもらってよく聞いたのは
「60歳までやって一人前」
と言うもの。長い年月がかかる修行の道。働いている時は返事もしてくれない方々も職人が集まる居酒屋ではろくなこと言わない(笑)

母も憧れて生前はオーダーの道に修行してましたし、大叔母達も地元には縫製工場が有りましたので皆切磋琢磨してました。
そして、既製服を取り扱う弊社はイタリア製品でバイイングの時点で打ち合わせしていくしかないのかも知れませんね。
誰かにとって“着られなかったはずの服”を、
“自分に似合う一着”に変えてくれる――
それこそが、私が今でもイタリア製品の可能性に惹かれ続ける理由ではあります。