Atto Vannucci 25AW「November 1990 in Milan」

アットヴァンヌッチの仕入れは、
毎シーズンいちばん時間がかかります。

サンプルを前に並べて、
触って、結んで、少し離れて眺めて、また自社に戻って悩み……
「本当にこれで良いのか…?」と、寝ても覚めても悩んでしまうブランド。
それは単に「かっこいいブランドだから」ではなく、
私にとってアットヴァンヌッチは
“使命として仕入れる一本” だからです。
量産品ではなく、一本一本がフルハンドメイド。
選び方を間違えたら、誰よりも自分が許せない。そしてお客様に胸を張ってご提案出来ない。
だからこそ、アットヴァンヌッチだけは
「まあこの辺でいいか」という妥協が一切できません。
私にとって、Atto Vannucci を仕入れるということは、
Del Fiore

からお客様へ宛てた
一本ずつの“手紙”を書くこと
だと思っています。
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25AWのコンセプト
なぜ今「ミラノ」なのか

──師匠と弟子が見た街
今季 25AW のテーマは
**「November 1990 in Milan」**──1990年11月のミラノ。
アットヴァンヌッチはフィレンツェのブランドです。
それなのに、なぜミラノなのか?
その背景には、デザイナー 加賀健二氏の原点 があります。

「アットヴァンヌッチ」というブランドが生まれる前、
彼が師匠フランコ・ミヌッチ氏

のもとでヨーロッパを見て回っていた時代。
その中で、初めて全身で“ヨーロッパの空気”を吸い込んだ街のひとつがミラノだったそうです。
当時のミラノは、アルマーニを象徴とする
• 静かなエレガンス
• ロゴではなく「トーン」で見せる格好良さ
• くすんだニュートラルカラーの重なり
に満ちていました。
グレー、トープ、ブラウン、沈んだパープル。
石畳や建物、人々の装いまでもが、
どこか「少しだけくすんだ上品な色」でつながっていた時代。
今季の Atto Vannucci 25AW は、
その“記憶のミラノ”にもう一度そっと触れにいくようなコレクションだと感じています。
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ミヌッチ氏はドットを嫌い、

加賀氏はあえてドットで挑戦する
アットヴァンヌッチの根底には、
もちろん師である フランコ・ミヌッチ氏のイズム があります。
• 芯地を使わないフルハンドメイドのセッテピエゲ
• ネクタイを「巻く布」ではなく「装うための小さな彫刻」として捉える感覚
• クラシックの中に、ほんの少しの色気と遊びを潜ませること
そしてもう一つ、有名な話として、
ミヌッチ氏は 「ドット柄」をたいそう嫌った と言われています。
あの可愛らしさを良しとしなかったのか、
クラシックの世界観にそぐわないと感じたのか。
理由は本人にしか分かりませんが、とにかく好まなかった。
一方で、そのイズムを継承しながらも、
あえてドットやプリントを差し込んでくる のが加賀健二氏です。
師匠の背中を知り尽くした上で、
「それでも、自分はこういうエレガンスも信じたい」
と、ドットタイや愛嬌のある小紋柄を使って挑戦している。
この「敬意と反発」が同居する姿勢は、
バイヤーとしても心から尊敬しています。
ただ、その上で Del Fiore は、あえてこう名乗りたいと思っています。
そして
「私は、基本的にはミヌッチ派です。」
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今季のアットヴァンヌッチは、とても “豊作” なシーズンでした。
もちろん Del Fiore としても、「これは!」と思うからこそではありますが
少し派手な色やプリントタイを、いくつかあえてセレクトしています。
けれど、それは
• 数を増やしたいから
• 種類の多さを誇りたいから
ではありません。
「これは…」と心が震えたものだけ。
そこからさらに、
「この一本を、あのお客様の首元に結んでいただく姿」を具体的に思い浮かべながら、
一本ずつふるいにかけて残した結果が、今季のラインナップです。
そのうえで、軸になっているのはあくまで

• ソリッド(無地)
• レジメンタルストライプ
• ペイズリー

といった、フランコ・ミヌッチ氏のイズムに近い世界観。
そこに、加賀氏の挑戦の一部として、
「これは日本で紹介しておきたい」と思えたプリントタイや個性的なペイズリーやレジメンタルを、スパイスのように加えています。
今季は本当に「豊作」だった。
だからこそ、これだけの本数・種類を仕入れました。
「豊作だったから、ここまで揃えた」
──それが正直なところです。
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「セッテピエゲは「形」ではなく、
ローリングの色気です」
セッテピエゲ(7つ折り)

という“形”だけなら、
日本でもアジアでも、真似をしようと思えば真似はできます。
ですが、アットヴァンヌッチのセッテピエゲが唯一無二なのは、
「ローリング(うねり)の色気」にあります。
• 芯地を使わず、七つ折りの構造だけで立ち上がる柔らかさ
• 結び目から剣先に向かって自然に生まれる立体感
• 光を受けたときだけ浮かび上がる、陰影と艶のグラデーション
この“うねり”を出せる職人は、
イタリア国内でもごくわずか。
高齢の職人たちが、いまもなお一本一本を縫い上げています。

セッテピエゲを名乗るネクタイは世界中にあっても、
この静かな色気だけは、形を真似したところでどうにもならない部分です。
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8.5cm × 150cm
布を惜しまない一本は、小さな芸術品になる
Del Fiore では、
大剣幅 8.5cm、全長 150cm というサイズで展開しています。
このスペックで展開しているのは、日本では当店だけです。
このサイズは、単なる好みではありません。
• 背の高い方でも、結び目にゆとりが持てる長さ
• ダブルノットや、少しボリュームのある結び目も楽しめる余裕
• セッテピエゲ特有のローリングを、より豊かに表現できる生地分量
そして生地は敢えてグレードの高いものを使用しています。私は、他のブランドと違いアットヴァンヌッチにコスパを求めていません。

「芸術品の域に達するものを惜しまないこと」もまた、
このブランドにふさわしい贅沢だと思うからです。
こうして仕上がった一本は、
もはや単なるネクタイではなく、
首元に結ぶ小さな芸術品だと感じています。
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バイヤーの仕事は、
“ブランドを並べること”ではなく、“手紙を書くこと”
それでも私が、Atto Vannucci を仕入れ続けるのは、
• デザイナーとバイヤーの静かな駆け引き
• Del Fiore の審美眼と、お客様の審美眼との勝負
• 一本一本が、お客様の「ここぞの一日」に立ち会えるかどうか
そのすべてを引き受けた上で、
「この一本を、お客様に託したい」
と決める作業です。
1990年のミラノで、
若き日の加賀健二氏が見上げていた空と街並み。
その記憶から生まれたネクタイが、
2025年の日本で、お客様の首元に結ばれる。
その瞬間を想像しながら、
今季も一本一本、選びました。
「今日は、この一本で行こう。」
そう思ってクローゼットから選んでいただけたなら、
バイヤーとしてこれ以上の喜びはありません。