🪡ネクタイとは、“語らぬ誓い”A Silent Oath Woven in Cloth

【Chapter 0】
古代ローマの兵士たちと、「focale(フォカーレ)」という布

Focale – The Roman Soldiers’ Protective Scarf
ネクタイの歴史を語るとき、
「クロアチア兵が巻いていたクラバットが起源だ」と言われるのが定番かもしれません。
けれど、私が調べていて驚いたのは、
それよりもさらにずっと昔――古代ローマの話でした。
兵士たちは「focale(フォカーレ)」という布を首に巻いていました。

それは、
• 鎧から肌を守る
• 防寒や防塵
• 汗を拭くための実用品
……として活躍していた実用布でしたが、
一説では、“兵士である証”としての象徴的な意味もあったと言われています。
私は、こう思っています。
戦地という極限の場所で、命と誇りを共に巻く。
フォカーレとは、そういう“誓いの布”だったのではないでしょうか。
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【Chapter 1】
クラバットという、誓いと品格のスカーフ
Cravat – A Scarf of Oath and Nobility
17世紀。
ヨーロッパを揺るがす三十年戦争にて、フランス軍に加わったクロアチア兵たちが首に巻いていたのが、
のちに「クラバット」と呼ばれる布でした。
恋人からの布を結ぶ者もいた。
部隊ごとに巻き方や色で識別していた。

──そんなエピソードも残されています。
この“布の誓い”は、いつしかフランス宮廷の貴族たち

に見初められ、白いレースやリネンとして仕立て直され、
上流階級の象徴へと昇華していきます。
クラバットを美しく結べることは、教養と余裕の証。

そこには忠誠と知性、敬意と気品が込められていたのです。
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【Chapter 2】
ブランメルの「ネクタイ革命」
Beau Brummell and the Silent Elegance Revolution
19世紀初頭のイギリス。
**Beau Brummell(ボー・ブランメル)**

という一人の伊達男が、ネクタイの“革命”を起こします。
「人に振り返られた時点で、それは失敗だ。」
──彼のこの言葉は、当時の華美な装飾とは真逆の思想。
白いクラバットを何度も巻き直し、控えめな美学を徹底した彼のスタイルは、
イギリス紳士の基礎となり、現代の「Vゾーン」の美学へとつながっていきます。

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【Chapter 3】
「Vゾーンに個性を」という言葉の誤解
The Misunderstood “Individuality” in V-Zone
「Vゾーンに個性を」──
この言葉が、“派手さ”や“奇抜さ”として誤解されている光景を、私は何度も目にしてきました。
でも、本当の個性って、**語らずとも伝わる“選び方”や“静かな美意識”**の中にあると思うのです。

むしろ、
• 無地のソリッドタイ
• ほんの少しの差し色
• 構造で魅せる織りの陰影
そうした中にこそ、装う人の人生や背景がにじみ出る深さがあるのではないでしょうか。
私は、そう信じて、
Atto Vannucci
や、
Franco Bassi
や、
ホリデーアンドブラウン
ように「誇りを内包する布」を選び続けてきました。
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【Chapter 4】
Del Fioreとして伝えたいこと
What Del Fiore Believes – Neckties as Poetic Architecture
落合正勝さん

が提唱されたVゾーン理論には、たしかに論理の美しさがあります。
けれど私は、そこにもう少し“詩と敬意”を重ねたいのです。
• フォカーレという命の布
• クラバットという誓い
• ブランメルの無言の美学
• イタリアの色気と構造美
そのすべてが、一本のネクタイに凝縮されている。
だからこそ、私は“巻く”という行為に、人生の美意識を込めたいと思うのです。
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【Final Chapter】
Vゾーンは、心を結ぶ場所
The V-Zone – Where Heart Meets Fabric
ネクタイとは、誰かに見せるためだけのものではなく、
自分自身の“誇り”や“節目”を結ぶための布。
今日、あなたがネクタイを選ぶ時、

そこに「勝負」や「挨拶」や「儀式」の気持ちが込められているなら、
きっとそれは、あなたにしか結べない一本になるはずです。

Vゾーンとは、あなたの生き方がにじむ場所。
だから私は、そこに“詩”を添えて、一本ずつお届けしたいと考えます。